結論から
AIに「何を任せ、何を任せないか」は、AIの得意・不得意で決まります。 得意なのは、材料を渡して形にする作業——要約、下書き、変換(翻訳・整形)、分類、コードのたたき台づくり。苦手なのは、渡していない事実を正確に思い出すこと、厳密な計算、最新情報、そして「間違えたら困る最終判断」。
この記事で伝えたいのは一点です。AIは「渡した材料を、うまく加工する」のは得意だが、「持っていない事実を、正確に取り出す」のは苦手。だから、必要な材料を渡せるタスクを選び、AIに作らせて、人が検証する——これが、AIに任せる仕事の選び方です。 そして、この見分け方の正体も、やっぱり前回までの「文脈(コンテキスト)を渡せるか」でした(→ コンテキストの記事)。
- 得意:要約・下書き・変換・分類・アイデア出し・コードのたたき台(=材料を渡して加工する系)
- 苦手:渡していない事実の正確な想起、厳密な計算・集計、最新情報、責任のある最終判断
- 数字で:材料を渡した要約なら誤りは1〜2%まで下がる一方、材料なしの事実問題では3割超も間違える
- 選び方:必要な材料を「渡せる」タスクを選ぶ/AIに作らせ、人が最後に検証する
動画版(約2分半)は本文の上に埋め込んであります。
① AIが得意なこと:材料を「形にする」
まず、AIが本当に強い領域から。ざっくり言うと、手元の材料を、別の形に加工する作業です。
- 要約する:長い文章・議事録・メールを短くまとめる
- 下書きを作る:メール、告知文、企画のたたき台、説明文
- 変換する:翻訳、口調の調整、箇条書き↔文章、表↔文章、コードの言語変換
- 分類・抽出する:問い合わせを種類分けする、文章から必要な項目を抜き出す
- アイデアを出す:たたき台をたくさん出す(採否は人が決める)
- コードのたたき台を書く:定型的な処理の下書き、雛形
共通点は、「答えの材料が、渡した文章の中にある」こと。要約なら元の文章、翻訳なら原文、分類なら分類したい文。AIは、渡された材料の中で組み替える作業が得意です。実際、元の資料を渡したうえでの要約では、事実の誤り(ハルシネーション)は1〜2%程度まで下がるという報告もあります。すでに多くの現場で使われていて、2025年には企業の約8割が何らかのAIツールを業務に使っているとされます。
② AIが苦手なこと:持っていない事実を「思い出す」
一方、AIには、はっきり苦手な領域があります。
- 渡していない事実を、正確に思い出す:社名・数字・日付・仕様。学習の記憶はあいまいで、もっともらしい嘘(ハルシネーション)を作りがち
- 厳密な計算・集計:桁の多い計算、正確な合計、在庫や金額の突き合わせ
- 最新の情報:学習した時点より後のことは知らない
- 責任のある最終判断:採用の合否、医療・法律・お金の最終決定
理由は、前回までの記事で見たとおりです。AIは「次の言葉を確率で選ぶ」装置で(→ LLMの仕組みの記事)、渡された文脈の中の情報しか正確には使えません(→ コンテキストの記事)。だから材料を渡さずに「思い出して」と頼むと、外れます。数字で見ると差は歴然で、材料なしの事実問題や複雑な推論では、誤答が3割を超えることも珍しくありません。極端な例では、存在しないライブラリ名をAIが自信満々で"創作"することがあり、コード生成で最大99%も起きたという報告もあります(→ この創作名を悪用する攻撃が slopsquatting でした)。
③ 見分け方:材料を「渡せる」タスクか
では、どう見分ければいいのか。ここまで来れば、答えはシンプルです。そのタスクに必要な材料(文脈)を、AIに渡せるか? これが分かれ目です。
- 渡せる → 任せやすい:「この議事録を要約して」「この規約をやさしく言い換えて」「この問い合わせを種類分けして」。判断の材料が、渡した文章の中にある
- 渡せない → 危ない:「A社の去年の売上は?」「この計算を暗算して」「最新の法改正は?」。材料が手元になく、AIの記憶だのみになる
そして、「渡せない」タスクを「渡せる」に変える道具が、これまで学んだものでした。RAG は、必要な資料を自動で探して渡す。MCP は、外のデータや道具をその場でつなぐ。 つまり、材料さえ用意できれば、苦手だったタスクも任せられるようになる。逆に、材料を用意できないまま任せると、外れる。AI活用の上手・下手は、結局「必要な文脈を渡せているか」に戻ってくるのです。
④ 任せ方:AIに作らせ、人が検証する
最後に、実際の任せ方です。得意なタスクを選んだうえで、基本の型はいつも同じ。AIに作らせて、人が最後に検証する。
AIは「下書きを速く大量に作る」のが得意で、「その下書きが正しいか保証する」のは苦手です。だから、役割を分けます。AIは、たたき台・要約・分類・変換を高速で出す担当。人は、それを確かめて、責任を持って決める担当。 メールの下書きはAI、送る判断は人。コードのたたき台はAI、本番に出す前の確認は人(→ 公開前の5つのチェックの記事)。この分担なら、AIの速さを活かしつつ、間違いが外に出るのを防げます。
そして、AI機能をアプリに組み込むときも同じ発想です。「どんな材料を渡し(=ハーネスの設計)、出てきた結果を誰がどう確かめるか」を決める。任せていいのは"加工"、任せてはいけないのは"検証なしの最終判断"。 この線引きさえ持っておけば、AIは、とても頼れる相棒になります。
よくある質問
結局、AIは何に使うのが一番いいんですか。
「材料を渡して、形を変える」作業です。要約・下書き・翻訳・整形・分類・アイデア出し・コードのたたき台。答えの材料が手元にあるタスクほど、安心して任せられます。
逆に、任せてはいけないのは?
材料を渡せない事実あて(記憶だのみ)、厳密な計算・集計、最新情報、そして「間違えたら困る最終判断」です。ここはAI単独に任せず、人が検証・決定します。
苦手なタスクも、任せる方法はありますか。
あります。必要な材料を「渡せる」形にすればいい。社内資料を渡す(RAGの記事)、外のデータをつなぐ(MCPの記事)。材料さえ用意できれば、苦手だったタスクも任せられるようになります。
AIが出した数字や事実は、そのまま使っていい?
いいえ。材料を渡していない数字・事実は、もっともらしくても間違っていることがあります。特にお金・法律・医療・人事にかかわる情報は、必ず元ソースで検証してください。


